NPO法人 視覚障がい者国際協力協会(ICA)

視覚障がい者の自立を目指して

あいか通信49号(2010年3月号)

       

        ケニア第2プロジェクト(第2期)報告

東京に桜の開花宣言が出たとたんに、花冷えとは言えない真冬の寒さが続いています。皆さまお元気でお過ごしでしょうか。

今回の講習でもハプニングが続きました。出発直前、事務局の森山が同行できなくなりました、が、大変幸いなことに、青山章行さんと石山琢子さんが行くことになりました。青山さんは仕事の関係で現地に2泊しかできない厳しいスケジュールにもかかわらず、講習生に会いたいと参加しました。彼の情熱には脱帽です。

石山さんはICAのホームページを手伝ってくれているボランティアですが、ホームページを充実させていくために一度はケニア講習会に参加したいと考えてコンピューター持参の参加です。デモンストレーション会場では、急遽プロジェクターを利用することになり持参のコンピューターを駆使してもらい大変助かりました。

講習会やデモンストレーションの様子を、ホームページでお知らせすべく準備中です。どうぞお楽しみに。

講習生は2人が出産、2人が育児、2人が職場の都合で欠席、結果9人が参加しました。あん摩デモンストレーションには一般の人39人、日本大使館、JICA事務所、SOKの関係者合わせて70人余りが参加しました。

デモンストレーションでもハプニングがありました。来賓の祝辞で、岩谷滋雄大使のスピーチも終ろうという時、突然、私に感謝状を贈りたいと言われ驚きました。これは皆さまからのご協力で続けてきた事業への評価と受け止め、皆さまの代表として謹んでお受けしました。

大変照れくさいことですが、皆さまへの感謝の意をこめてご報告いたします。前途多難ですがこれからも微力を注いで参ります。重ねて皆さまのご協力のほどよろしくお願いします。

 

 

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感謝状を受け取る金理事長    

                               (金治憲)

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       ケニアあん摩講習会に講師として参加して

                        福井県立盲学校 窪田清和

まったく別の世界に来た感じでした。1日目はほとんど雨で、2日目と3日目も午後から雨が降りましたが、まったく蒸し暑い感じがなくサラっとしていました。道理でケニアの人たちは日本の冬の服装だったことが理解できたような気がします。

朝は「コケコッコー」で夜が開け、車のクラクションが鳴り、きれいな小鳥の声で目覚めるというたいへん優雅な生活をおくることができました。

朝、昼、晩と食事はおいしくいつもの倍以上食べたような気がします。日本にいればこのような食事の状態では、必ず夜中2時間くらい胸焼けがおこり苦しまなければならないのが、一度もおこりませんでした。しかし、目やにがいつもより多かったようです。日本に帰ったとき、それはすぐに治りました。また、歯磨きをしているとき必ず吐き気がおこったのに、これも一度もおこりませんでした。体は疲れていましたが、体調はすこぶる良い状態でした。

受講生の皆さんは非常に熱心で、講習会に出席する日本人も見習わなければならないと思います。みんな実技に勉強に真剣に取り組んでくれました。質問も多く出て、講義をスムーズに進めることができました。

一緒に行った佐藤さんが受講生の顔の表情や態度などの様子を報告してくれたので、大変参考になりました。感謝しています。また、朝のあいさつで「マンボ(元気ですか)」「ポア(元気です)」という対話で授業を始めることができました。

13日の午後には日本大使館の文化センターで、日本あん摩のデモンストレーションが行われました。一緒に行った佐藤さん、石山さん、現地の田村さん、JICAや日本大使館の人たちの準備段階からの協力のお蔭で、無事成功裏に終わることができました。

ケニアの受講生の皆さんも一生懸命あん摩をしてくれたので、40名のクライアントをスムーズにさばくことができました。ただ1週間の講座の中で、ボンフェス君とジャクソン君は何も発言がなく、こちらから名前を呼ぶと「はい」と答えるだけで、ほとんど目立たない存在でした。

ジャクソン君にはデモンストレーションの最初に声をかけることができたのですが、心残りはボンフェス君に「ボンフェスポレポレ(ゆっくり)」と最終段階で声をかけてやれなかったことです。

もう一つの楽しみは、福井県立盲学校に在籍していたパペチュア・ムグレさんに、何年ぶりかで会えたことでした。名古屋の青山さんとYMCAで夕方6時に会うことになっていましたが、結局会えたのは夜の8時でした。ケニアは月曜と金曜はひどい渋滞がおこるので、それにひっかかったということです。

現在彼女は治療院を閉じて、ケニアッタ大学で栄養学の勉強をしているとのことでした。日本では医食同源という言葉がありますが、あん摩の治療と同時にクライアントに食の指導ができるようなことを考えているのは素晴らしいと思います。

あん摩のデモンストレーションのあいさつの段階で金理事長に日本大使から感謝状が送られました。突然のことで驚きましたが、これは金理事長が長年にわたり、ケニアの盲人の職業としてあん摩を定着させようとされた努力の賜物だと思います。僕もわずかですが、その一端に協力できたことはたいへんうれしく思っています。

第2プロジェクトが終わるまで病気にならないように、日本での生活に注意をしなければならないと思っています。たいへん有意義な機会を与えていただいたことに深く感謝します。

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アフリカへの東洋文化技術の渡来の実感

                ボランティア(講師介助) 佐藤静夫

日本の伝承文化の一つのあん摩が、1万キロ以上もはなれ、野生の王国として世界に知れ渡ったケニアの日常生活に根付こうとしている歴史的な瞬間に居合わせる幸運に、胸に迫るものを感じていました。

2010年3月7日、夕方ケニアの首都ナイロビに着きました。今世紀に入ってケニア第2プロジェクト、第2期目になる「ケニアあん摩講習会」は3月8日から13日までナイロビのYMCAで行われました。

この第2期の講習会は昨年に続いて2度目の講習になり、今回はケニアの視覚障害者、9人の青年たちが受講しました。この中には日本の盲学校専攻科を卒業したフィリゴナ(38歳)とMr. ジェンガー(元日本留学生)の二人が英語と、現地語のスワヒリ語の通訳として参加していました。

指導は主催のICA理事長の金治憲さんと講師は窪田清和(福井盲学校教諭)さん。

受講した彼らは、一定のあん摩技術を今までの講習会で身につけていて、半数の人は実際に仕事になっていますが、もう一息の人はこの機に技術を身に付けたいと講習会を今かいまかと待っていました。

まだまだ不便なケニアの交通事情のなか参加者の半分の青年たちが地方から5時間とか遠い人は8時間という時間をかけて乗り合いバスを乗りついで駆けつけてきていました。この講習会にかける彼らの真剣さにはアフリカの野性的感性が漂い、触れれば切れる刃の周りにいるようなすごさを感じました。

講習は人体の筋肉の構成、血管、神経などの専門用語を交えた日本語の講義を、英語とスワヒリ語に通訳して講習が進んでいく。英語が公用語なので順調に講義は進みます。

窪田さんが午前中にあん摩の技術、午後にあん摩の理論と道徳など、きわどい話も含めて系統立てて1週間教授して、最終日は日本大使館の文化センターで、あん摩のPRのためデモンストレーションを行い、ナイロビの人々に講習生があん摩技術を披露します。

日本の伝統的なあん摩の技術がケニアの視覚障害者を救う。これは大げさな表現ではないのです。今まで、ケニアでは視覚障害者の職業といえるものはなかったからです。

ケニアの社会状況下の悪しき慣習に障害者を家族が見捨てる風習が残っているという話を聞いたことがあり、ナイロビの繁華街でそうした障害者の人たちが観光客に物乞いして生きる糧を得ている光景を何度も目にしてきました。一昔前の寂しく切ない点景でした。

9人の受講生のなかで特にジャクソン青年(30歳)に金さんと窪田さんが注目していました。窪田さんは授業の中でもジャクソンに気持ちを入れて教えていました。ジャクソンも誰よりも真剣に、休み時間もとらずに点字を読みあん摩を習得しようとしていました。が、つぼを教わってもすぐにつぼをはずす。病的な記憶疾患でないかと疑うほどでした。

講習会の最終日、金さんが個人レッスンをしました。ジャクソンはそのことがうれしくてたまらないらしく、金さんの肩を一生懸命にもんでいました。無口で静かな小男のジャクソンがこの時ばかりは「先生、ここでいいですか」「ここでいいですか」と一つ一つ確認してきます。この真剣さが痛ましく思えて、このとき自信を持たせてやればジャクソンはあん摩師になれると感じたという。

ジャクソンは両親を知らない孤児で、教会の孤児院で育てられるうちに自信を失う何かのトラウマを持ったにちがいないと金さんと窪田さんは感じ取っていました。「ジャクソン、よくできた」と金さんはほめた。窪田さんも自信を持たせる言葉をかけていました。

当日3月13日、日本大使館でのあん摩のデモンストレーションはナイロビの人たちが、用意した椅子をうめつくしていました。9人の受講生は張り切ってあん摩をしています。受ける人も満足し、日本大使も満足して「癖になりそう」とにっこり。

気になるジャクソンは女性のお客さんをもんでいました。そして、もみ終わった後、その女性客に「あなたのあん摩は力があって、気持ちがよかった」と握手を求められました。ジャクソンはびっくりした表情の後、顔がふにゃふにゃになるほどうれしさを顔一面にあらわしていました。人にほめられるうれしさをジャクソンは初めて感じたのかもしれない。

もうひとつ、ジャクソンに後日談があります。講習会後、夕食会のときのはなしですが、ジャクソンという存在さえ感じないでいたとき、何人目かの後にスーッと立ちあがったジャクソンが自分も歌います。と一曲、哀愁の漂うメロディーの歌を唄いました。そして、歌い終わった後、見えない瞳からあふれるように涙が・・・。この涙をみよ、ジャクソンの涙は信頼された喜びの涙ではなかったか。そして、その先にあるのは自信というジャクソンのエネルギーであってほしい、と願う。

9人の按摩の技術の底上げに成功した今回の講習会。金さん、窪田さん、丁寧な指導、お疲れ様でした。