NPO法人 視覚障がい者国際協力協会(ICA)

視覚障がい者の自立を目指して

あいか通信46号(2009年9月号)

 

   ケニア第二プロジェクトスタート

   

朝夕めっきり涼しくなりました。皆様暑い夏を乗りきり、お元気でお過ごしのことと存じます。いよいよケニア第二プロジェクトがスタートしました。去る8月1日、日本を出発、11日無事に帰ってきました。

今回の参加者は、2004年度に行った第一プロジェクトの修了者10人のうち7人とマチャコスのあん摩コース修了者5人でした。

欠席した3人は2人が育児のため、1人は交通事故のため入院していました。8月6日の授業後、講習生と一緒に病院へお見舞いに行ってきました。本人は大変元気で、後3・4日で退院とのことでした。

ここでひとつ初体験をご報告します。ケニア到着後、会場のYMCAで受講生たちとの顔合わせを終えてゲノさんの車で宿舎に向かっているところでした。交差点でもないところで突然、ドカン!と大きな音とともに、体中に衝撃が走りました。一瞬何が起ったのやら・・・。道路沿いの建物から出てきた車が私たちの乗った車の横っ腹にぶつかったのでした。

車を止めてみると後部ドアが大きくへこんでドアが開かなくなっていました。幸いなことに全員怪我もなく大事には至りませんでしたが、その後、ゲノさんは事故処理のため何度となく警察や保険会社に足を運ぶこととなり大変でした。

翌日から講習が始まるという時にこんな目に遭うとは・・・と、期間中心配でしたが、ともかく無事に講習を終えることができ、ホッと胸をなでおろしたことでした。

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    第二プロジェクト 第1期 講習会を終えて

     宇和野 康弘

8月3日から8日までの6日間、ナイロビのYMCAを会場に行った講習会は、5年前に行ったICAの第一プロジェクトの修了者7名にマチャコスの技術訓練校であん摩コースを修了した5名が新たに加わり、合計12名が受講しました。男性が5名、女性が7名、そのうち点字使用者は9名、活字使用者は3名でした。全員20代です。

第二プロジェクトでは、3年間で合計216時間の講習を6期に分けて行います。午前9時に始まり、午後4時40分に終わる1日の日程を1コマ90分の4コマで時間割を組みました。時間全体の4分の3を講義と質疑に、4分の1を実技に振り向けました。

1年目は『人体の構造と働き』を中心に、独自に作った英文のテキストと購入した骨格模型を使って指導しました。日本での留学経験のあるフィリゴナさんとジェンガさんの二人に通訳をお願いして、以下の内容を取り扱いました。

 

 1.身体の仕組みや働きの基礎となる細胞・組織・代謝・体液などについて

 2.頭部・頸部・胸部・背腰部の骨と関節

 3.筋の特徴と頸部・肩背部の筋

 4.あん摩セラピストのマナーやモラル、クリニック経営について

 5.頸部・背腰部のあん摩・指圧と関連する症状への対応

 

 受講者の半数は程度の差はあるものの、あん摩・指圧で収入を得ているため、実施にともなう質問が活発に出ました。そのため予定を変更して質疑にも多くの時間を割くほどでした。

1期目の講習を担当して感じたことを記して報告とさせていただきます。

1.実技の能力にかなりの個人差がみられるので今後個別の指導に、より力点を置く必要がありそうです。

2. 医学知識の基礎を終えてから臨床へ進むという流れよりも、両者を並行しながら指導した方が受講者の意欲も高まりよいようです。

3.英語による医学の点訳資料が皆無といえるケニアなので点字のテキストがとても貴重に思えました。

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    ケニアプロジェクトに参加して

                                 岡村健

キムさんの自伝「盲留学生」出版のお手伝いをしたことで、視覚障害者の自立をライフワークとしたキムさんの生き方を知りました。そして今回、ケニア第二プロジェクトのスタートに参加して、「あいか」が取り組んでいる仕事が、どんなに素晴らしい意味を持つかを、ナイロビの空気の中で、肌で感じることが出来ました。

初めてのアフリカの旅を報告しつつ、現地の雰囲気を会員の皆さんにいくらかでも伝えることができたらと思います。

僕の役目は、講師の盲学校教諭・宇和野康弘さんの手引きでした。まずは品川駅のホームで待ち合わせて京浜急行で羽田へ。ところが、旅慣れない僕のトランクは20キロ強の重さになってしまい、階段でも、エスカレーターの乗り降りでも足元がふらつくありさま。

一方、宇和野さんはソウルパラリンピックの柔道で金メダルを獲得した偉丈夫です。右肩につかまってもらって手引きをしているつもりなのですが、傍目には、屈強な男性が白髪の爺さんをエスコートしていると見えたでしょう。このコンビは帰りの東京駅まで続きました。

ナイロビのYMCAを会場に行われた一週間の講習は、毎日午前中の3時間がテキストを使った講義、午後の3時間があん摩の実技でした。授業に立ち会って、視覚障害者が日々直面している「見よう見まねが出来ない大変さ」ということが初めてわかりました。

テキストは日本語の点字版をもとに英語の点字と墨字が用意され、宇和野さんが読み上げて解説を加えてゆくのを、通訳担当の元留学生フィリゴナさんとジェンガさんが英訳し、時にスワヒリ語で補足してゆく、という作業です。関節や骨の専門用語を英語でどう言うのか、辞書を引くスタッフを含めて総がかりの授業が続くのでした。

講習生は第一プロジェクトの講習修了生にマチャコス校の卒業生を加えた計12人です。半数強の人があん摩技術を生かして収入を得られるようになっているということです。教室は明るい笑い声が響き、熱気があふれていました。それでもキムさんは「みんなちゃんと聞いているかな。メモはとっているだろうね」と細かく気を配っていました。

質問も活発です。「薬で治らない人が、指圧で治りました。これはどういうことですか」。これを受けて宇和野さんは、日本でも現代医学が対応できない分野での代替療法が見直され、医療の場で「ホリスティック」が注目されているといった最新の動向を説明し「プロとして勉強し続けなければならない。終わりはありません」と講習生を鼓舞するのでした。

授業の後で、SOKのゲノさんが参加して何回か話し合いが行われました。テーマは「治療院開設」。今シリーズのもう一つの、そして最も重要な事業です。この成否は、視覚障害者の自立をケニアに根付かせるという最終目標の達成にかかわります。

キムさんは受講生に次々に問いかけます。「何が問題なのか、どうしたいのか」「やると言って、ダメでは困る。一度決めたらやり抜くというのでないと」。

治療院開設の中核を担うことを求められて、戸惑いをみせる受講生もいます。突っ込んだ論議がつづき、2時間に及ぶこともありました。

具体的な問題も話し合いました。▽治療料金はいくらにするのか。出張治療で外国人なら1000ケニアシリング(KS=約1400円)でもOKだが、治療院ではどうか。外国人頼みでなく、ケニアの人たちに普及するためには500KS、あるいは300KSぐらいにするべきではないか。「マッサージ」という名称だと性的なものと誤解されることがある。「セラピー」が良いが、そういう名称を使うことに法的な問題はクリアできるか・・・

得難い体験をしました。ナイロビ在住の田村良雄さんが僕のために一日をさいて案内してくれたのです。「マサレ」というスラム地区を通り、近郊のリムルの町で食堂に入り、観光ルートには無いナイロビを見ることができました。

その食堂で、五歳ぐらいの男の子が白杖の父親の手を引いて物乞いに回ってきました。視覚障害者の普通の姿だということです。教室の講習生が二重写しになりました。そして、キムさんの自伝のシーンが浮かびました。タンザニアのモシ。日本留学を希望する青年を尋ねた帰り、日暮れの迫る中、芦原正彦さんと二人でバス停への道をトボトボと歩いてゆくところです。あれから15年、アフリカの視覚障害者があん摩で収入を得られるようになったのです。

治療院を根付かせるには、制度としてあん摩を職業として認めるなどケニア政府の取り組みが欠かせません。それに向けて日本側からの公的な働きかけも必要になってくるでしょう。その点JICAの対応はいささか通り一遍で他人事みたいだな、と思いました。

帰ってから調べてみるとJICA改革プランが進められている最中です。そのキーワードに「人間の安全保障」があり、「人を中心に据え、人々に確実に届く援助」という視点が例示されています。

「あいか」の事業こそ改革モデルにぴったりではありませんか。政権交代が現実のものとなりました。「あいか」に集まるさまざまな人の協力の輪が大きな実りとなる時が近いと感じています。