NPO法人 視覚障がい者国際協力協会(ICA)

視覚障がい者の自立を目指して

あいか通信42号(2009年1月号) 

          

        遅ればせながら新年おめでとうございます           

2009年 (平成21年) の初通信です。昨年は世界的な経済危機といわれる厳しい状況にもかかわらず、年末寄付や『盲留学生』のご購入に多大なご協力をいただき、心より感謝申し上げます。相変わらず厳しい社会状況が続いていますが、引続き本年もどうぞよろしくお願いいたします。

なお、書き損じや残った年賀状などありましたら事務局までお寄せください。会報発送などに使わせていただきます。

 

今回の講習には、連絡が行き違ってしまったエヴァリンさんと出産で参加できなかったローズマリーさんの二人を除いた8名と、マチャコスのあん摩コース卒業生ポールさん、合わせて9名の受講生が参加しました。

講習会での様子は青山さんにお寄せいただいた文章をどうぞ。  (事務局) 

 ************************************

 

           ケニアの友と「共に生きる」体験       

                         (名古屋支部)青 山 章 行     

 人は、自分自身の枠の中での思想と経験に基づいて、自らの行動や考え方に意味づけを施す。そしてこれに定義付けをして方向を決め、歩むものと考えていた。

しかし今回ケニアの講習で、私は参加した友たちの体験や考え方を自分のことのように受け入れることができた。他人のものを自分の内に重要な一部とすることができるという新たな経験をしたように思う。自分の意識や行動の中において、他者の大切な部分を共有することにより、狭い自分の枠が打ち砕かれることのあるのを感じ、実に思いがけない経験をこの講習に加わって得ることができたと思う。

折しも、オバマ氏の米大統領就任に関する報道で、アラブの中継地点といわれるドヴァイ空港は熱気に沸き返っていた。意外に、我々が向かったケニアの首都ナイロビ市の下町では、落着きを感じたものである。

昨年のケニア大統領選挙の混乱により、地方を含めると一千人以上の犠牲者が出たと聞く。約1年を経てようやく国内全体に混乱は静まり、市内も比較的安全になったとのこと。この混乱状態を避け、約1年我々の講習計画を遅らせた。

今回の講習に参加した友たちや、付近の街の人々と交歓した話、あるいは顔の表情からは、全体として市民の間に「自立」と「共生」の意識が静かに行き渡っているように私には思われた。

 約2年のブランクを経て、正月明けの1月17日から21日までの5日間の講習に日本からは3名が参加した。金理事長と事務局の森山七穂美さん、それに名古屋支部の私である。

2年前の講習に照らすと、受講生達9名の技術はそれぞれに違いはあっても、あんまの仕事を自らの実際の生業とすることで、格段に技術の向上進歩が見られ、彼らの自信の高まりが感じとられた。

また自立への渇望感もひしひしと伝わって来た。彼らの内、半数近くはナイロビ市内から遠隔の地に居住しているが自分の仕事の場所とチャンスを確保したいという熱意においては、市内に住む他の仲間らに劣らないものを感じとることができた。

今回会場に着いて彼らに再会したとき、彼らは「やあ、ブルーマウンティン(=青山のこと)」と手を広げて迎えてくれ、「2年も会わなかったとは思えないネ」などと口々に、自分のことや思いを語ってくれた。

ケニアでは未だ「日本式あんま」の技術が国家資格としての公認を得られていない。是非この資格を公認してもらいたいというのが彼らの願いだ。過去に日本に留学し盲学校卒業後日本の鍼灸マッサージの国家資格をとったフィリゴナさんを通訳に、我が協会(ICA)からの技術指導が毎年続けられ、この講習事業は既に数年となる。

受講生の中には、この2年の間に仕事を着実に広げて自分のクライアント(患者さんのこと)をかなり確保した者もいる。彼等は自分のあんま業により念願の自立を相当程度実現できたという。またメンバーの発言によれば、

「あんまを知る以前は、それまで父母や身内に頼らざるを得なくて卑屈になり肩身が狭かった」

「現在は、妹や弟の学費を自分のあんまの収入で出せるようになり、自分が頼られている」

「父母や家族達に小遣いをあげられるようになった」

「自分の治療院を借家して開業した」

等々と、喜びとその自信に満ちた声を聴くことができた。

彼らのその姿を見ていると、「あんま」を知る迄は全くの暗闇の人生にあったのが、現在では明るい太陽の下に出て来られたような、無上の喜びを感じとることができる。彼らはいわば晴眼者と対等に、あるいは苦労した結果それ以上に、胸を張って生きるすべを獲得したように思われる。

「皆でもっと宣伝活動をして日本式あんまを広めたい」

「旧くからケニアで普及しているヨーロッパ的なマッサージは、身体の表面の皮膚をオイルで撫で回すだけで健康や治療にはつながらない」

といった積極的な発言や主張が聞かれ、なんとも頼もしく思われた。

毎日午前9時から午後4時過ぎまで、一人一人が金理事長からびっしりと実技の指導を受けた。同時に彼らは先輩後輩の隔てなく、診療ベッドの上で相互に自分達の技術を交換し合っていた。

受講生達はこの時とばかり積極的にどんどんやり方を真似たり、耳を傾けて自分の中に熱心に取り入れているようだった。加えて森山さんと私は、彼らの格好な実験台にされ、連日もみくちゃにされてクラゲやイカのようになり、嬉しい悲鳴をあげた次第である。

当協会の事務を、昨年亡くなられた荒木久子さんから引き継いでこの講習に参加した森山さんは、日常の煩雑なICAの雑務から解放されて、彼らから丁重にあんまをしてもらい、疲労をときほぐしたのか、大いに満足した様子(?)である。

終盤の討論の時間では、自分たちで共同の治療院を作り、経営したいという希望や、このチームワークを強固にして、あんま事業を世にアピールしたいという彼らの夢の実現に話題が集中した。

彼らは現在のところ、視覚障害者のための現地ドイツNPO法人で我が協会のカウンターパートナーでもある「SOK」(ゲノ氏代表)の事務所の一室を間借りしている。しかし場所の手狭さや不便さの問題があり、また客の依頼にも十分応えられない面がある。こうした現状には彼等は満足できない。

これ迄一生懸命に習得し磨いてきたので自分たちの技術をさらに一層広めたいという意識が高まってきているのだ。 彼らはゲノ氏の事務所から借りている一部屋で共同で営業する他に各自が自分固有の客の所に出張して仕事をし、自分自身の報酬を得ることもある。そのため結果的にそれぞれが得る報酬は違ってくる。従って彼らの間に多少のやっかみも生まれることはあるがこれは無理もない。

各自の経験や技量、客筋等に差が生ずるのは自然なことであろう。むしろそのことは、長い目で見れば彼らのあんま技術の仕事に対する自信を強め、独立へのチャンスを高めるものと見てさし支えない。

それよりも私は、彼らの折にふれて高らかに合唱する歌声や屈託のない笑い声、そして議論の場では遠慮なく自分の考え方を明らかにするその様子に深く感じるところがあった。おそらく彼らは、既に自分の手中のものにした、とも言い得る「あんま」の技術により、将来への自信と希望を見出しているのだろう。

さらに彼らには、もはや自分が視覚「障害者」であるという意識そのものが薄くなっているように私には思われた。彼らの心の中でそのことが小さく片隅に追いやられてしまっているようだ。少なくも「あんま」を知るそれ以前の、自分が不自由をしていた頃の生活の抑圧感は見受けられないと感じた。

この数日間、朝から夜まで一緒に過ごして、自分と彼等との間に何らの隔てが感じられないことをしみじみ思った。全くの同じ仲間だという感じであった。

そこで思ったことは、冒頭で述べたことであるが、他者そのものの存在を自分の中に受け入れ、互いに尊重し、そして共に手をとり合って生きるということが、この上なく尊いということである。どんな人もそれぞれに固有のハンディを有している。そして確かにその違いはあるとしても、このことを深く理解しつつ共に生きることだ。

人との真実の交わりには、これを深く自覚することが大切だと思った。ひるがえって、自らを省みると、実はこれまで「同情心」から彼らに接していたのではないかと、今回強く気が付かされる思いがした。言い換えれば、自分の心の深い内に、意識はしていなかったが「高みから人を見る」という根本的な不遜が存していたのではないかということを衝かれ、その自覚を迫られたのである。彼らと何の隔たりも気兼ねも感じずに交わる中で、私はこのことを自分の深みの部分において示された思いがする。

今回の講習に加わり、彼等の語る中に、昨年急逝された荒木久子さんのことが折りにふれて話題になった。つい先頃まで一緒に活動してきた荒木さんの存在感は大きく、今なおわれらを支えて下さっているという思いを禁じ得なかった。

またジャイカ青年海外協力隊員としてマチャコス視覚障害者技術訓練校で日本式あんまの普及に大きな貢献をされ、足跡を残された五味さんにも深く感謝する。彼はわれわれの事業にも協力を惜しまず、昨秋その任を終えて日本に帰国されたのだが、講習生の中にはその指導を得て心から感謝している者もいる。

更に今回も、前回同様、ジャイカのケニア事務所を訪ねて次期プロジェクトについて意見交換を行った。同事務所の所長以下、スタッフの皆さんの並々ならぬご理解と協力とに、改めて深く心から感謝する。

末尾になったが、言うまでもなく当協会はケニアでの講習事業につき、当初からNGO法人「SOK」事務所のゲノ所長ほかキャロルさん達の献身的な支援、激励を受けている。今回も彼らから心温まる支援を多大に頂き、私共の協会にとってはどんなにありがたいものであるかと思う。                                                     (1月27日記)